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2017.8.11/内分泌内科

甲状腺腫瘍

甲状腺癌

甲状腺の結節(※)は頻度の高い疾患であり、
ドイツの研究において検診受診者中68%に認められたと報告されています (1)。
日本においても検診受診者に甲状腺エコー検査をした研究で、
嚢胞性病変(※※)は27.6%、
結節性病変は22.8% に認められたとされています (2)。
甲状腺エコー検査で結節などが見つかった時、
その多くは良悪性を判断するため穿刺吸引細胞診検査を行われます。
これは結節に針を刺して細胞を吸引し、
病理(顕微鏡で細胞を見て良悪性を判定する)で調べる検査です。
そして悪性と判断された際には手術で切除されます。
甲状腺結節の頻度が高い一方で、甲状腺癌の発症頻度は
男性0.26% 、女性0.66%と比較的少ない数です(3)。
さらに北欧において、何らかの原因で亡くなった方の解剖検査で、
22.0%~35.6%の方に甲状腺癌が見つかったという結果も出ています (4, 5)。
韓国や米国においては、エコー検査の普及に伴い
小さな甲状腺癌の発見頻度が高くなり、
積極的に手術した時代もありました。しかしこのように、
甲状腺癌の発見頻度が増えているにもかかわらず、
実際に甲状腺癌で亡くなる人の割合は、積極的に手術をした時代と、
そうでない時代で変化なかったと報告されています。
このことから、甲状腺癌には生命に影響しないものが少なからずあり、
特にエコー検査で偶然見つかる小さな病変は、たとえ癌であったとしても
人の寿命に影響しないのではないか、という見解が
世界的な主流となってきています。
そのため、特に1cm未満の甲状腺においては最初から穿刺吸引細胞診の
検査まで行わないという診断指針を出している国もあります。
The American Thyroid Association (ATA) (7-8)、
British Thyroid Association (BTA) (9-10)、
American Association of Clinical Endocrinologists, Associazione Medici Endocrinologi, European Thyroid Association (AACE/ AME/ ETA) (11)、
Korean Society of thyroid Radiology(12)
など、エビデンスに基づく診療指針を出しています。
またTIRADS(Thyroid Imaging Reporting and Data System)なども
複数グループより発表されています(6)。

しかし日本においては、たとえ小さな結節であってもしばしば
穿刺吸引細胞診まで行われています。
もちろん、被爆や放射線治療歴、甲状腺癌家族歴などを有する方、
頸部のリンパ節が腫れている方においては小さい病変でも
穿刺吸引細胞診まで行うべきですが、
現状はリスクが少ない患者さんにおいても行われています。
この理由として、日本では国民皆保険制度によって比較的安い費用で
検査できること、確固とした診断指針がないことなどが考えられます。

積極的な検査で正確に診断することも重要である一方、
医療経済的な費用対効果や検査・手術に伴う侵襲も
考慮すべき時代になっていると考えられます。

★★日本人に適したガイドラインの一助となることを目的に、
私は金沢大学附属病院での臨床研究結果を現在、
論文にまとめて投稿準備をしています。
これまで多くの甲状腺エコー検査を行ってきて、
エコー所見からおおかた良悪性を判断できる一方、
科学として誰がみても一定基準で判断できる指針を作りたいと
考えています。論文発表まであと一歩、頑張ります(^^)★★

※結節(けっせつ)…いわゆる、しこり。ある程度以上の大きさとなると、
『腫瘤』と言われます。結節、腫瘤いずれも良性、悪性ともに含みます。
※※嚢胞(のうほう)…体液の貯まった袋状のもの。多くは良性です。

1. S. Guth, Europian Journal of Clinical Investigation August. 2009; 39 (8): 699-706
2. Shimura H: Epidemiology of thyroid disease. Nippon Rinsho. 2012; 70 (11): 1851-6
3. The Japan Thyroid Association: Clinical Practical Guideline for Thyroid nodules 2013; 8-22
4. Harach HR, Cancer. 1985; 1- 56 (3): 531-538
5.Francisco J, Martinez-Tello, M.D., Cancer. 1993; Jun 15;71(12):4022-9.
6. Eleonora Horvath, The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2009; 90(5):1748–1751
7. Haugen, B. R., Thyroid, 2016; 26(1), 1–133
8. Doherty, G. M., Thyroid. 2009 Nov;19(11):1167-214
9. Clinical endocrinology vol 81 supplement 1 July 2014.
10. Mitchell, A. L., 2016 United Kingdom National Multidisciplinary Guidelines, 130, 150–160
11. Gharib, H., 2010 J Endocrinol Invest, 33(5 Suppl), 1–50.
12. Huang, T., 2013 BMC Medicine, 11(1), 1

金澤なかでクリニック
内科認定医・糖尿病専門医・内分泌専門医 院長 齋藤麗奈